2012年3月31日までに検査を受けた方のうち、未成年者の割合は全体の71.78%でしたが、今回公表分では64.98%と、約7%低下しました。2012年4月以降の受検者で20才以上の割合が増えた理由として、①子どもの検査の際に、親御さんにも積極的にWBCを受けて頂いたため、②自治体から大人を対象にしたWBC検査依頼が増えたため、の2点が挙げられます。
<2012年4月1日以降、検出限界を超えて有意に検出された方は全体の0.89%>
全年齢での結果を呈示します。検出限界未満の方は、8,127名(99.11%)でした。有限値を検出した73名(0.89%)のうち、20Bq/kg以上の方は4名(0.05%。男性3名、女性1名。4名とも60才以上)で、さらに、そのうち2名の方は食卓を共にするご夫婦です。有意検出者のうち、数名の方の詳細な経過については、のちほど事例別に報告をいたします。なお、20Bq/kg以上を検出した方の割合も、前回公表時(1.50%)に比べて減少傾向にあります。
※「Bq/kg」での公表の意味、「0-5Bq/kg」の意味については、前回公表資料http://www.seireikai.net/news/2012/04/post-33.htmlをご参照ください。
※当財団WBCの検出限界である300Bq/body(セシウム134、137とも)は、受検者(成人)が検出限界程度の放射能を有していた場合に、1年間毎日平均2.4Bqのセシウム137を摂取していることとなり、現在の存在比率ではセシウム134も合算して年間約0.023mSvの被ばく量となります。検出限界未満は、少なくともこの被ばく量を下回ることを意味します。
○図2:検出限界を超えた方々の体内量内訳と男女比、年齢分布
<有意検出者の体内量は概ね少ないが、飛び抜けて高い方が数名おられる>
福島県内在住で有意検出した方は71名でした。そのうち、もっとも人数が多いのは5-10Bq/kgで、さらに検出量が多くなるに従い人数は減じていきます。50Bq/kgを超えて検出された3名は、食事内容が非常に特徴的だったことがわかっています。なお、0-5Bq/kgの人数が少ないのは、体重で検出量を除しているため、体重が重い方でないと分布し得ない領域だからです。有意検出者のうち、男性がおよそ88%と多く、年齢も40才以上の方がおよそ80%を占めています。
<男女比について>
被検者の男女比がほぼ1対1であることを考えると、男性の検出率が高いのは特徴的です。男性に有意検出者が多い原因として、①女性に比べて男性の方が若干生物学的半減期が長い可能性がある、②家族の中で食事の内容がやや異なっている可能性がある、などが考えられます。
<年齢について>
年齢が高い方に有意検出者が多いのも、受検者数の年齢分布・比率を考えると特徴的です。原因として、①年齢が高いと生物学的半減期が長く、少量の持続摂取でも平衡量が検出限界を容易に超えうる、②小さな子どもを持つ家庭では、親世代も含めより防護的な食材を選んでいる、などが考えられます。なお、12才以下での有意検出者は0名です(図4、5を参照ください)。
いずれも、より細かな検討を今後継続していきます。
○図3:前回公表分と今回公表分の対比(全年齢)
検出限界未満の方の割合は、前回91.70%から、今回99.11%と大幅に増加しています。20Bq/kgを超える方も121名から4名と減じています。この結果は、少なくとも今回公表分の受検者の中には、放射性セシウムをここ数ヶ月の間、1日平均数ベクレルのレベルであっても、慢性的に継続摂取している方がほとんどいらっしゃらないことを示しています。ただし、ごくわずかではありますが、日常的に多くの放射性セシウムを摂取している方がいらっしゃることも同時にわかります。
ひらた中央病院では、2012年2月29日まで基本的に更衣なしでWBC検査を行っていましたが、3月1日より更衣を徹底した結果、有意検出者の数が劇的に減じました。つまり、前回公表分の有意検出者のうち、多くの方は衣服に微量に付着した放射性セシウムを検出していた可能性があります。前回の結果に多く含まれていた「更衣なし」の方の結果と、今回のようにすべて「更衣あり」の方の結果を単純に比較するのは難しく、この結果から、①今年度に入ってからの放射性セシウムの摂取が減少した、もしくは②体内からの排泄が進んだ、等を、残念ながら積極的にいうことできません。
いずれにせよ、2012年3月1日以降の結果は、更衣を行った上のものであり、受検者集団の内部被ばくの状況をほぼ正しく示していると考えます。
○図4:2012年4月1日から7月31日までにWBC検査を施行した12才以下の方(3,850名)の内訳
<12才以下に限ると、検出限界未満の割合は100%>
被検者のうち、12才以下に絞って検討を加えています。検出限界を超えた方は0名。全員が検出限界未満です。
○図5:前回公表分と今回公表分の対比(12才以下)
12才以下に限った場合、検出限界未満の方は、前回の97.61%から今回は100.00%となり、有意検出者は図2でも示したようにおりません。
○図6:2012年3月31日以前のWBC検査で有意検出され、4月1日以降も含め3回以上の再検査を行ってきた事例
1回目のWBC検査で有意な値が検出され、2回目の検査でも検出限界未満にならず、3回以上の検査を行った7名の状況をグラフにしています。初回検査は更衣をしているとは限らず、2回目に生物学的半減期を遙かに上回る急激な低下があった方については、放射性セシウムの着衣付着の影響を考えます。有意検出者の方々は、食事の状況を聞き取り相談の上、ご希望される時期に再検を繰り返しています。すべての方で前回値を下回り、追加摂取がほとんどないことを示しています。
○図7:2012年4月1日以降のWBC検査で有意検出となった方の再検査の状況(4月1日以前の有意検出者を若干名含む)
<食品計測や対話を経た再検査において、すべての方で少なくとも検査期間中の再上昇はみられない>
再検査を行った98名のうち、2回目も有意に検出された12名の方の経過をグラフにしています(なお、グラフに非表示の86名の方は、2回目で全員検出限界未満となっています)。12名全てが右肩下がりではあるものの、一部の方は傾きがゆるやかで、平均して1日数Bqの摂取を継続している可能性があります。赤太線で示した66才の方は、リンゴ(自治体の検査で35Bq/kg)を毎日継続して食べており、若干の低下はあるものの、ほぼ体内量が平衡のまま推移していることがわかります。なお、数名の方に急速な低下がみられますが、一般的な成人における生物学的半減期よりも排出が早く、代謝の差など、個人的な要因が大きいと考えられます。
○図8:地域別の検査人数および有意検出者の総数(全年齢)
福島県内在住で、公益財団法人震災復興支援放射能対策研究所のWBC検査を受けた方の地域別状況を検討しました。もっとも受検者数が多いのは県中地域の4,264名でした。次いで相双地域の1,461名ですが、相双地域には相馬市、新地町の他、避難中の双葉郡8町村、飯舘村、南相馬市の方が含まれています。
地域間の検出割合の差違について図9と併せて検討を加えていきます。県中地域の受検者では子どもの占める割合がかなり多く、逆に相双地域では大人の占める割合が多いことにお気づきいただけると思います。16才以上の被検者数を母数として、検出者の割合を再度計算すると、県北地域では2.55%(全年齢2.13%)、県中地域では1.43%(同0.33%)、相双地域では4.23%(同3.90%)、いわき地域では1.92%(同1.22%)となります。相双地域でやや検出者の割合が多いのは、協定市町村からの依頼で、年配の男性の受検が多いため、と考えられます。
なお、県内の有意検出者71名のうち、県外避難をし、食品に強い注意を払いながらも有意に検出され、初期被ばくの残存を考える方が数名程度いらっしゃいますが、他のほとんど方は、食事状況の聞き取りや食品の測定の結果、経口慢性摂取による検出であることが確認できています。
○図9:地域別の検査人数および有意検出者の総数(15才以下)
図9では、図8と同様の検討を、15才以下のみで行っています。15才以下では有意検出者は2名に激減します。
○表2:聞き取りや食品測定にて有意検出の原因と考えられた主な食品について
公益財団法人震災復興支援放射能対策研究所では、WBC検査の有意検出者に対し、積極的な再検査と食事内容の聞き取りに加え、ご希望に応じてゲルマニウム半導体検出器を用いた食材の放射能検査を行っています。その中で、明らかに体内放射能量の増加の原因になったであろう食品の一部を表2にまとめました。特に原木シイタケは、避難地域から持ち出した原木で栽培したもので、キノコに特有の高値を示しています。こういった検査と併せて個別に対話を行うことで、有意検出後の体内放射能量のコントロールについて、受検者と共に考えています。
ここからは、2012年3月以前のWBC検査も含めて、有意検出と食品との関連が強く示唆された事例について個別に呈示します。
○事例1:干し柿の頻回摂取が体内量の低下を緩やかにした、と考えられる事例
12才の女児の事例です。WBC検査を受けた家族全員で放射性セシウムが検出されています。時間経過とともに体内量の低下が確認できますが、2回目までと、3回目までの検査の間で低下の速度が変わっています。1回目から2回目までは、生物学的半減期(約50日)を上回って実測値が下がっています(初回に更衣がなかったため、その影響も考えられます)。しかし、2回目から3回目の間の低下は減速し、平均して毎日約12Bqの放射性セシウムの摂取があることが示唆されます。食事歴として、2回目から3回目の間に干し柿の摂取が多かったことを確認しています。干し柿のみが原因かどうかは判断困難ですが、放射性セシウムの継続摂取が考えられた事例です。
(参考)生物学的半減期を50日として、実測値と追加摂取がない仮定による予測値との比較
3,935Bq/body→(52日間)→実測1,442Bq/body(予測値は約1,972Bq/body)
1,442Bq/body→(40日間)→実測1,215Bq/body(予測値は約832Bq/body)
○事例2:猪肉の頻回摂取が初回検出の原因となり、2回目までの体内量の低下を緩やかにした、と考えられる事例
15才の男児の事例です。初回検査で有意検出した原因食品として猪肉がもっとも考えられ、実際に計測すると214.4Bq/kgの放射性セシウムが検出されました。2回目までの検査の間で予測値よりも低下の速度が緩く、平均して毎日約4~5Bqに相当する放射性セシウムの摂取が推測されます。猪肉以外の慢性摂取も疑われましたが、3回目の検査では検出限界を下回り、大きな追加摂取がないことが確認されています。
(参考)生物学的半減期を50日として、実測値と追加摂取がない仮定による予測値との比較
983Bq/body→(29日間)→実測772Bq/body(予測値は約672Bq/body)
○事例3:継続してリンゴを常食した夫婦の事例
お住まいの市町村の検査で、毎日食べているリンゴに35Bq/kgの放射性セシウムが検出された方の事例です。男性の場合、生物学的半減期を100日とすると、初回から2回目検査までの追加摂取は毎日平均約22~23Bq、2回目から3回目検査までの追加摂取は毎日平均約3~4Bqと推測されました。女性の場合、初回検査の1,864Bq/bodyから180日後の2回目検査時に検出限界を下回るためには、計算上は追加摂取がないことになりますが、①男性に比べて半減期がより短い可能性、②摂取量が男性に比べてやや少なかった可能性などが考えられます。
(参考)生物学的半減期を100日として、実測値と追加摂取がない仮定による予測値との比較
※68才男性の場合
2,116Bq/body→(55日間)→実測 1,880Bq/body(予測値は約 1,002Bq/body)
1,880Bq/body→(125日間)→実測 747Bq/body(予測値は約 555Bq/body)
※65才女性の場合
1,864Bq/body→(180日間)→実測 ND(予測値は約 333Bq/body)
○事例4:種々の食品の摂取が体内放射能量を引き上げたと思われる事例
70才男性と66才女性、74才男性と74才女性がそれぞれご夫婦です。64才男性は単独で居住されています。いずれも警戒区域内に自生していた食品や栽培品を未検査で摂取していました。それぞれのご自宅を訪問して、種々の食品をお預かりし、計測した結果を次スライドに示します。
2012年8月2日検査で総セシウム19,616Bq/bodyを検出した方は、2011年3月15日から継続して毎日同量の放射性セシウムを摂取したと仮定した場合、1日平均およそ146Bqを慢性的に摂取してきた計算になります。
2012年9月18日検査で総セシウム25,032Bq/bodyを検出した方は、同様に一日平均およそ190Bqを慢性的に摂取してきた計算になります。この食生活を1年間続けた場合の内部被ばく量は、図に記載のとおり1.057mSvと計算されます。
2回目検査を受けた3名は、追加摂取がない仮定の予測値と実測値がほぼ合致し、1回目のWBC検査後、汚染食品を新たに摂取していないことがわかります。なお、74才女性、64才男性の方は、今後再検査を検討しています。
※74才のご夫婦、64才男性の方は初回検査がそれぞれ2012年8月2日、9月18日のため、今回の公表分の例数には含まれていません。
(参考)生物学的半減期を100日として、実測値と追加摂取がない仮定の予測値の対比
※70才男性の場合
11,200Bq/body→(24日間)→実測8,950Bq/body(予測値は約8,213Bq/body)
※66才女性の場合
6,800Bq/body→(20日間)→実測5,330Bq/body(予測値は約5,276Bq/body)
※74才男性の場合
19,200Bq/body→(18日間)→実測16,778Bq/body(予測値は約15,323Bq/body)
○事例4(補遺):事例4のみなさんが食べていた食品の計測結果
事例4の各ご家庭に伺い、放射性セシウムの含有が疑わしい食品を提供いただき、計測した結果を呈示します。特に放射性セシウム含有量が大きいのはシイタケで、警戒区域から個人的に持ち出した原木で栽培・収穫し、干シイタケもその原木シイタケを使って自作していた、とのことです。また猪やニジマス、ヤマメ、イワナなどについては、単独男性が趣味の狩猟・釣りで継続して摂取したことがわかっています。他の食品も、警戒区域内で自生しているものを中心に採取し、未検査のまま摂食していました。計測値が大きく一般食品の基準値を超えていることもさることながら、放射性セシウムの体内量をここまで押し上げた理由は、これらの食品を「常食」しているということです。
キーワードは、「(高濃度汚染地域での)野生・自生食品」「放射性セシウムが移行しやすい食品」「未検査」「常食」の4つです。これらを満たす食材で生活を営んだ場合、放射性セシウムによる内部被ばくで年間1ミリシーベルト前後の被ばく量になる方が実際に存在することが明らかとなってきました。逆に、福島県に住んでも、このキーワードと正反対の食材で生活した場合、少なくとも一般的なWBCの検出限界を下回ることが推測できます。